TeXユーザの集い 2010 に対する個人的総括 --- 自らの執筆と発言を振り返って

TeXユーザの集い 2010 は 2010 年 10 月 23 日,急に涼しくなり始めた季節にあって,好天の下開催された.公式発表のとおり,137 名にご参加いただいた.前年の TeXユーザの集い 2009 に比べて参加者が増え,2 年目のジンクスといった心配は杞憂に終わったと言ってもよいであろう.筆者は,実行委員会に属しているため,客観的な分析というのは難しいが,まあまあ盛況であったと言ってもよいのではないか思う.以下では,準備や当日における自分の執筆や発言・行動を振り返って,個人的な総括を行いたい.

「ごあいさつ」文面

予稿集に掲載された以下の「ごあいさつ」文面が,今回のTeXユーザの集い 2010 に対するねらいを冷静に表現したものになっている.最終段落は,冷静というよりも冷徹という印象を抱かせてしまいそうで(筆者は感じる),なんとか拭いたかったがここまでが限界だった.ただ内容としては,実行委員会による企画――招待講演も実行委員会が意思を持って企画しているものであることに注意されたい――の方針が端的に示されている.

TeXユーザの集い 2010」は,TeX に関する研究・開発や活用例・作品例について発表すること,(TeX に限らず)編集・組版・印刷について理解を共有すること,TeX を扱う技能を向上させること,参加者同士で交友を深めることなどを目的として開催することになりました。

昨年の「TeXユーザの集い 2009」は,(実行委員会の知る限り)TeX の名の下に国内でユーザ・開発者が集まるひさしぶりの機会で,113 名の方にご参加いただきました。参加者のうち 79 名からご回答いただいたアンケートを元に,今年は昨年に比べて多種多様なセッション――ポスター発表,パネルディスカッション,企画「出張!TeX Q & A」――を加えています。それぞれにお楽しみいただけるものと願っています。

この 1 年間を振り返ると,電子書籍についての話題が世の中を席巻していました。バッチ処理や数式処理などの点で TeX への期待も漏れ聞くところではあります。一方,TeX 界や出版印刷業界に目を向けると,電子書籍かどうかに関わり無く,世界の開発は進んでいますし,いままでの業務も遂行されています。今回の集会では,参加者間で,現在までの動向をきちんと共有し,新たな潮流へと向かう共通基盤が形成されることを期待しています。

西松さんの発表に対するコメント

「TeX の数式が分かりにくい」ことと「フォント」が結びついていたので,どんなことをお考えなのかを聞きたい,というのと TeX の数式記述も進歩しているということに(聴衆を含めて)興味をもってもらおうという意図でコメントした.STIX フォントを理解していない段階で発言すること自体に無理があったのだが,最後に奥村さんからフォローが出て,とくに STIX フォントと西松さんのやりたいことについて理解は深まった: 最終的な数式組版結果という意味合いではなく,html などでの出力系における,数式 I/F の見やすさ向上を目指したい,といったように思う.ちなみに,筆者コメントの要旨は以下のようなもの:

少なくとも pdflatex (e-tex 拡張のおかげか?) 範囲内においては,\usepackage[mathletters]{ucs} を使えば,ギリシア文字も $$ 内に書いてタイプセットできる.STIX フォントの範囲について勉強不足だが,ギリシア文字などの通常の大きさの文字・記号を代替しようというフォントの話であれば,TeX の範囲内でも出来ることが増えているので,日本語 TeX でも使えるように開発を進めることや,もし使えるならば啓蒙することが大事ではないか.

あらためて実験してみた結果を以下に掲載してみる.ただし,pdfLaTeX で処理したところまでを扱う.入力として次のソースを用いる:

% mathletters.tex

\documentclass{article}
\usepackage[mathletters]{ucs}
\usepackage[utf8x]{inputenc}
\usepackage{amsmath,amssymb}
\DeclareUnicodeCharacter{"2115}{\ensuremath{\mathbb{N}}}%"
\DeclareUnicodeCharacter{"2099}{\ensuremath{_{n}}}%"

\begin{document}
\fbox{$∀ ε > 0,~∃ n₀ ∈ ℕ,~∀ n ∈ ℕ: n ≥ n₀ ⇒ |a - aₙ| < ε$}

% $ ∀ ɛ > 0,~∃ n₀ ∈ \mathbb{N},~∀ n ∈ \mathbb{N}:
%   n ≥ n₀ ⇒ |a - a_{n}| < ɛ $

% $ \forall \varepsilon > 0,~\exists n_{0} \in \mathbb{N},
%   ~\forall n \in \mathbb{N}:
%   n \geq n_{0} \Rightarrow |a - a_{n}| < \varepsilon $
\end{document}

正確に見られるかどうかは,表示環境に依る.Meadow (Emacs 22.3.1) + YaTeX での見た目は下の画像のようである.'LATIN SUBSCRIPT SMALL LETTER N' (U+2099) が化けている.

UTF-8 数式入力の Emacs 画面イメージ

テキストエディタで簡単に閲覧できなければ,「入力結果を簡単に確認できる」というところにつながらないので,STIX フォントなどの取組みが大切であろう.上記 LaTeX ソースを pdfLaTeX で処理した結果は以下のようになり,想定どおりの結果が得られたことが分かる.

UTF-8 数式入力の出力結果画像
mathletters.pdf

さらに補足だが,ε ('GREEK SMALL LETTER EPSILON' (U+03B5)) は [mathletters]{ucs} に登録されているようで正常にタイプセットできるが,似たような見た目の ɛ ('LATIN SMALL LETTER OPEN E' (U+025B)) は処理できないので注意されたい.

パネルディスカッションでの活動

アクセシビリティ確保のための活字起こし

パネルディスカッションの時間中は,聴衆に話が視覚的に見えるようにするため,会話の様子をできるだけ漏らさないように,スクリーンに文字で反映させ続けていた.情報へのアクセシビリティを確保するために,最近よく行われる手法らしいということでの試みであった.裏方としては,ずっとタイピングと組版をしており,Twitter 上で @ken_na さんに「TeXロゴはどのようにして出してますか?」と尋ねられていたのだが,まったく気づかぬくらいに“てんやわんや”していた.システムの種明かしをすると,ラップトップ PC を 2 画面出力にし,

利点としては,かな漢字変換の様子が見えないことや,公開のタイミングを自分で制御できることから,タイピングに無駄な神経を使わなくてよいことや多少の推敲が許されることにある.欠点としては,即時性を若干犠牲にする点が挙げられる.SumatraPDF では変更のたびに自動更新が行われるので,同じ仕上がりページ内での更新のために,スクリーンのほうへフォーカスを当て直す必要はない.ただしページを繰る作業は必要である.今回はシステムの都合で,タイプセットのたびにコマンドプロンプトに切替えていたため,ときたま切替えを間違えて,スクリーン上のページが戻るなどして見苦しかった点は改善の余地がある.

PDF ヴューアではロックが起こるために,PDF(プリ)ヴューイングは現実的でないと洗脳されている聴衆へのアンチテーゼだったつもりだが,広報がもういまいちだったので,意図が伝わったか不明だった点は残念である.

するのと何が違うのか,というご指摘の向きもあろう,ということに後から気づいたが,まあそれは「TeXユーザの集い」ですから,ということで大目に見ていただきたい.ねらいとしては,(デジタル放送を期に盛んになっている)リアルタイム字幕に近いというのは前述の通りである.

自分のコメント・質問

パネルディスカッションの最後に,時間がぎりぎり取れそうだからということで,コメント・質問することにした.自分で発言しながらも主語と述語が一致していないひどい日本語をしゃべっているのは理解できていたのだが,立て直せなかった.(少し,いや大分か)補って書き起こすと,以下のような内容の発言を行った:

学生だったとき,土村さんに近い研究室にいたこともあって,有志持ち回りで(Linux を使おうという)セミナーをしているときに TeX の回を 1.5 回やったことがあります.今から思うと,整理された資料が残っているという意味で,よい企画だったとは思っています.しかし,有志で課外に開いているという時点で,よい教育となっていたかどうかや,ユーザが増えることに寄与したかどうかについてはよく分かりません.出版業界において入社後に教育するコストについて議論がありましたが,潜在的なユーザを増やすことに寄与が大きい,大学の方などに,教育や教材に関するアイディアなどお聞かせ願えればと思います.

意図は,以下の 3 点にあった:

教育としての取組み 3 件と個人的な想い 1 件の回答が寄せられ,個人的な想い 1 件からは奥村さんの最後のまとめともリンクし,まるっきり明後日な質問ではなかったと思う.ただ,パネルディスカッションのテーマにもっと即して,印刷出版業界における(新人用の TeX)教育についての実例を挙げてもらったり,学術界への期待を述べてもらうといった質問を投げかけてもよかったのか,と後になって思い直しているところである.

という文章を書きながら……「印刷業界人のスキルアップのための TeX 講座」を開いたら,どのくらいの受講者が集まるのだろうか,そしてどれだけのレベルに持っていかなければならないのか,ということを想像している.需要があるなら,5年に一度くらい,そういう連続講座を開設するのもいいのかもしれないと思うが,どうだろうか?(ひとまず言いっぱなし.)

閉会の辞

閉会の辞についてはプログラムに誰が務めるか記載がなかったが,実行委員会内で相談して,筆者が務めることとなった.要旨は以下の通り:

ここからは後日の補足である.適度な新陳代謝は必要だと強く確信している.実行委員についても,企画や運営形態についてもあてはまる.メールでも構わないので,ご意見・ご感想があればお寄せいただきたい.

懇親会の司会,締め

省略.